昨日は夕陽を見逃して6時半には眠りにつきました。
標高3000メートルでのテント泊、
思いもせず、長い夜を過ごすことになりました。
昨夜は眠りにつく頃から風が吹き始め、
テントがパタパタと音を立て始めた。
そして気温もぐっと下がった。
上半身は保温性の高いアンダーウェアとダウンジャケット、
レインウェアを着込み、ズボンの下にはモンベルのジオラインタイツをはいた。
寒さと頭痛に悪夢を見ながら眠ったのか眠っていないのか
分からないまま目が覚めた。
時間の感覚では午前4時頃だったが、
時計を見てみるとまだ21時だった。
早く朝にならないかなあ。
再び腕組みをして固まる様に横になる。
次は尿意で目が覚める。
うなされていて眠っていたのかどうかも定かでないが。
時計を見ると2時半。
小屋のトイレに行こうとテントから這い出ると
辺りは一面真っ白。
風も強い。
ヘッドランプの明かりは3メートルほどしか照らしてくれない。
這う様に少し進んだが、
岩稜の中に作られた小屋への道が見分けられない。
テントを振り返るとランタンを点しているのに
暗闇の中に消えてしまいかけている。
これは戻れなくなる。
トイレを諦めてテントに戻った。
もう少し小屋の近くに張ればよかった。
まだ夜は長い、
なんとか眠らないと明日にひびく。
この状態のままでは北穂は無理だ。
明日はもうザイテングラードから涸沢に下山しようか。
とにかく暖かくしようとシュラフの上から
エマージェンシーシートを羽織った。
一枚で毛布三枚分の暖かさとかいうコピーを思い出した。
羽織ってしばらくすると随分と暖かくなって、
いつの間にか手袋と帽子を脱いでいた。
女の子の話し声で目が覚める。
既にうっすら明るくなっている。
しまったと跳ね起きてテントを開けるが、
既にご来光は終了。。。
既にテントを畳んで今まさに出発しようかという人もちらほら。
後で聞いたことだが
女の子2人が早々に槍ヶ岳目指して発ったそうだ。
今日のぼくの目標である北穂より倍以上の道のりだ。
少しは眠れたからか、
頭痛も吐き気も随分収まっている。
食欲はないが荷を減らすためにも
昨日食べ損ねたレトルトカレーを食べる。
小屋に給水に行くと
途中の道が凍り付いていた。
どうやら当日が初氷だったらしい。
昨夜はこの距離を行けなかったのか。
ちょっと欲張りすぎて眺望の良すぎるとこに張ってしまったみたいだ。
よく見てみるとかなりマゾなテン場だな。
表は風がそこそこあり、
どんよりしている。
各所で凍結が見られる。
北穂までも危険かもしれない。
ザイテンから涸沢に下山しようか。
今の体調とテンションを考えると北穂は無理かもしれない。
小屋で給水し、
リビングでハイドレーションにポカリスエットを溶かし込んでると
四国から来た男性に話しかけられた。
様子見停滞らしい。
しばらく話しをしてmixiに招待された。
バスの同乗者もうろうろしている。
ザイテンから下りようかなと言っている。
どうすっかなあと、
小屋を出てみんなでだらだらしていると
すーっと陽が射して来たではないですか!
と同時に頭痛が嘘の様に引き、
テンションもハイに。
「行きます!」
ほぼみんな同時に言って
「気をつけて」と小屋前から散開した。
山の天気は急変と言うが
こんなに分かり易く体験したのは初めてだ。
涸沢岳が呼んでいるよ。
ザイテンから人も上がって来た。
ヘリまで飛んで来た。
雲海がすごい。
AM08:38
北穂へ出発。
AM08:46
まずは涸沢岳を越える。
ますます快晴に。
涸沢岳ピークではケルンが凍てついていた。
北斜面は霜がすごい。
でもトレイルは凍結もなく完全に乾いている。
右手に今日進む道の先に北穂、
更にその先に大キレットを越えて槍がクリアに見える。
丁度県境で左が岐阜、右が長野。
昨日と同じで前後には誰も居ない。
このコースは事前に下調べをしておいたが
一番厄介そうだったのが涸沢岳からの下り。
V字に裂けた間からほぼ垂直に下る。
クサリがあり、
足下さえしっかり岩をとらえていれば大丈夫だった。
見上げた所。
クサリ場が続く。
涸沢の紅葉はまだだが
この高度ではかなり色づいている。
麻痺しているためか高度感はあまりない。
コルに出た。
飛騨側からの風がそこそこあり、一瞬ヒヤリとする。
信州側。
一旦飛騨側に。
クサリ場のトラバース。
確認する余裕がなかったが、
涸沢槍を巻いていたのかな。
信州側に戻った。
このまま涸沢まで下りて行けそうな感覚に陥る。
この辺りで北穂から来た単独者とすれ違う。
後ろは誰も来ない。
荒々しい岩稜地帯の小さい秋。
AM09:52
最低コル着。
およそ半分来たことになる。
久しぶりに広く平らな部分でほっとする。
レトロな看板の「最低」の文字に何故かひとり苦笑。
来た方を振り返る。
前方の小ピークに人が。
カメラを向けると向こうも目視してたみたいで
手を振ってくれた。
奥壁バンドに入った。
涸沢岳からの下り同様このコースの核心部。
この頃から前方から単独者が何人か。
足下の切れ具合は今まで一番かもしれない。
濡れたり、
風があると難しそうな所だ。
オーバーハングした岩の下を通過。
ここらでおばちゃんパーティーに捕まる。
「お兄ちゃん、大キレット行くの?」
「北穂までですよー」
「えー行きなさいよー楽しいわよー」
クライマーズハイ状態だった。
恐怖感はないが、
嫌な感じは度々していたので
ここより難関な大キレットはまだ現実的ではなかった。
槍が随分近くなって来た。
大キレットにはガスが覆いかぶさっている。
滝谷ドーム。
クライミングポイントだが今日は誰も登っていなかった。
稜線を歩く。
よく崩れないなと思う。
涸沢から登って来る人が見える。
いよいよゴールは目の前だ。
北穂、涸沢分岐点手前の窪みにイエス様?
手を合わさずにはいられなかった。
AM11:12
北穂高岳山頂着。
イエスを見たためか標識が十字架に見えた。
大キレットには相変わらずガスが迫っている。
近くの女子を捕まえて記念撮影後、
直下の北穂高小屋へ。
本当に山頂直下にある。
テラスで槍を眺めながら超贅沢な昼食をとる。
右手にはどっしりとした常念岳。
久しぶりに地球は丸いって景色を見た。
北穂を発つ前に大キレットへの入り口に。
奥穂北穂をやれば充分だと思っていたが
次は大キレットをやりたくなっていた。
槍まで続くこの道をいつか必ず。
北穂から下りる途中もう一度来た道を仰ぎ見る。
滅多に来れない所だし目に焼き付ける。
後は涸沢まで急降下。
涸沢に泊まる予定だったが
明日のことを考えれば徳沢まで下りておくのが無難かなあ。
膝の調子と相談しつつ下山。
なんて名の植物だろう?
傾きかけた陽に輝いてまぶしく、美しかった。
PM13:56
涸沢小屋着。
小屋に入ると
雑誌『PEAKS』でモデルをやっている子が小屋番をしていた。
思わずソフトクリームをオーダー。
行動停止時間が迫っていて
ここでテント泊するか悩んだが、
徳沢のフラットなテン場でゆっくり寝たく、下山決定。
昨日に比べるとテントが増えていた。
色々なテントを見るのも楽しい。
プロモンテVLシリーズ、アライのエアライズが多かった。
北穂にも別れを告げる。
PM14:24
徳沢へ向けてスタート。
荷も軽くなったし、緊張感から解放されて心も軽く
走り気味に駆け下りる。
後ろには誰も居ないが登って来る人が結構居た。
ほとんどが若い人だった。
次々と挨拶してすれ違って行く。
今回の山行でこんなに人に会うのは初めてだ。
近づくとうつむいて目をそらされても構わず挨拶。
無視されても挨拶。
横尾手前で前方に女の子が座ってずっとこっちを見ている。
近づくと、
「女の子を抜かしませんでしたか?一緒に居たんですけどはぐれちゃって」
ここまでひとりも抜かしていないし、
一本道で分岐点もない。
どうやってはぐれたんだろう。
なんだかミステリーっぽい。
既に薄暗いので少し待って来なければ
横尾山荘に相談に行く様に言い先を急いだ。
4時半頃横尾着。
徳沢まで後一時間ほどかかるし
さすがに足に疲れが来ているので
どうするかなあとストレッチしていると
またもおばちゃんに捕まる。
群馬から来て
テレビで見た奥穂に興奮して来てしまったらしい。
初めての登山らしい。
「行けるかしら?」
行けますよ。
きっと素晴らしい体験になりますよ。
ずっと喋ってくるので
では、と逃げる様に結局徳沢へ。
徳沢着が6時頃。
ギリギリな感じだった。
奥穂で会ったバスの同乗者も下りて来ていた。
雑炊とリフィルのカップラーメンで晩ご飯。
星空を期待したが雲がかかり気味で月も明るい。
ここは無料の公衆トイレ、
炊事場がありキャンプ場みたいな所だ。
それゆえ若干懸念していたのが
キャンパーが居ること。
山の人は遅くとも21時には就寝するのだが
そんなことも知らないキャンパーは深夜まで活動的。
テントの会話がだだ漏れなのも分からないんだなあ。
なんだか興ざめして
涸沢から下りて来たのを少し後悔。
でも上に比べるとシュラフの中は暖かいし、
草地の上に張ったフロアもふかふかだ。
PM19:00
眠りについたけど、
やっぱうるさくて眠れない。。。