北アルプスソロハイク DAY,2 8/13 月明かり、黄金、そしてブルー

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北アルプスソロハイク、2日目のレポートです。

1時頃、何かを思い出したように目が覚める。

そうだった、星を見なければならなかった。

昨夜はスーパームーンで今夜も月明かりが強過ぎて星は見えないかもと思ったが、フライを開けて夜空を仰ぐと巨大なオリオン座が東の空に沈むところだった。

天頂の辺りでは月が輝いている。ヘッドランプを点灯しなくてもテントサイトの様子がクリアに見えるほど明るい。

吐いた息が白く、夜空に向かってどこまでも立ちのぼる。

すでに朝食を作っているパーティーがいる。小声で話しているが静寂の中、真横で話しているみたいに聞こえてくる。

頭痛はまだ微かにしている。シュラフにこめかみを押し当てると脈が強く打っているのがはっきりと分かる。

睡眠は充分取れているようだ。もう眠るのは諦めてただ頭痛が収まるのを待つ。

3時、頭痛も収まり朝食の準備に取りかかる。Sさんのハバハバから玉子を割る音が聞こえてきた。

朝食は夕飯の残りご飯をそぼろふりかけとお茶漬けで食べる。食欲はないが食べなければならない。無理やり流し込む。
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ヘッドランプを灯して次々にパーティー、ペア、ソロの人達が出発して行く。今日の行動時間は6時間の設定。3年前にタイムアウトで行けなかった稜線の先を目指す。

出発の準備を終える頃にはヘッドランプを使わなくてもいいほど白んできた。月明かりが仄かな影を落としている。

4時48分出発。
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目指す黒部五郎が彼方に見える。
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太郎平に上がる。月明かりの下、夜露で濡れた木道を歩く。コツコツと、木道を歩く音だけが響き渡る。
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槍がくっきりと見える。
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太郎小屋を通過、雲ノ平との分岐点。まだ月光の世界。
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雲ノ平へと向かう人達。その背後、山の影からは陽が射してきている。
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山で大好きな瞬間のひとつが始まる。
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斜面に陽が当たり始めて、黄金色に輝きだす。
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これから歩くトレイルもくっきりと黒い筋となって浮かび上がる。
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時間にして10分と少しの黄金色のざわめき。終わると山は見慣れた色を取り戻した。
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ひとつ目のピーク、北ノ俣岳が見えてきた。
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雲ノ平もよく見える。
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ピークに登り詰めるパーティー。
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7時、北ノ俣岳ピーク。
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ここから先が未知の世界。勾配の少ないどっしりとした稜線が続く。
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右手に笠、正面に黒部五郎、その背後に槍と、僕を導くアンカーのようにそびえ立つ。
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この最高のセクション、強い紫外線とどこまでも青い空のせいかまともに目を開けて見ていられず、肉眼での像の記憶が今では薄い。ただ、報われたな、という気持ちを胸に一歩一歩を踏みしめていた。それだけははっきりと憶えている。

稜線を下りて、コルに達し、小ピークを登り始めた頃、空には雲が。
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斜面は一面の花畑。
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ガスってきた。
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今回初めて見たユリ科の高山植物。
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振り返ると、さっき歩いた稜線にもガスが。
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またコルに下る。
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そしていよいよ黒部五郎本体へ取りつく。その前にバームクーヘンを食べてエネルギー補給。その間に、学生パーティーが目の前をパスして行く。男子も女子も70リットルクラスのバックパックを背負い、顔を歪めて登って行く。
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先行する学生パーティー。
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登り詰めた所はピーク手前の肩。ここにバックパックをデポしてピークへ登る。
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歩いて来た道。今朝出発したテントサイトも小さく小さく見える。
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ピークへの最後の登り。
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10時半、黒部五郎岳ピーク。
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ガスが切れている。雲ノ平、水晶、鷲羽がクリアに見える。雲ノ平の小屋もテントサイトも見えた。
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薬師方面からは見えなかったカールを見下ろす。カールの果てに今日の目的地、黒部五郎小舎が見える。体が冷えない内にピークを後にする。
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肩には後続のパーティーのバックパックが増えている。
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カールの底まで一気に下る。
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ピークを見上げると荒々しい岩稜帯。
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カール内には雪解け水が豊富に流れ、花が咲き乱れている。
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崩落して来た巨石が点在している。
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久しぶりの樹林帯を抜けると、ようやく小屋が見えた。
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12時、黒部五郎小舎着。
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キンキンに冷えたビールが待っていた。
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テントはまだ5張りほど。先に着いていたSさんの隣に張る。
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小屋まで徒歩一分の好立地。
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ビールを飲んで、本を読んだりまどろんだりしてゆっくりと過ごす。膝のアイシングも忘れずにやる。今日は濡れていないので快適なテントライフ。学生のパーティーが何組も到着してテントサイトは賑やかに。

16時、玉子を割る音が聞こえてきた。夕食の時間だ。メニューはカップヌードルご飯と、ひじきと豆とソーセージの炒め物。
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17時半、ひんやりと寒くなりテントサイトはガスに包まれた。
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この様子だと明日の天気は怪しい。
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今日は結局7時間歩いた。色んな色を見た。

18時、テントでシュラフにくるまる。足にまだ疲れはない。明日も沢山歩けそうだ。昼間賑やかだった学生達も疲れたのか、しんと静かだ。

顔に火照りを感じる。昼間通った稜線の興奮がまだ冷めていないからなのか、紫外線にやられたからなのか、眠ろうとすると目から涙があふれてくる。顔に手をやるとがさがさに乾いている。指先も乾き、ささくれ立って服の繊維が引っかかる。体が山の影響を受けている。今だけは山の人間である事を嬉しく思い、噛み締める。

フライを雨粒が叩いた気がした。明日の天気は?、と考えるが頭の中では今日見た風景が渦巻いていて考えられない。明日の事は明日考えればいいや、と眠りに落ちた。